NTTデータ代表取締役副社長兼OYSTEC相談役の西畑一宏氏(Kaz Nishihata)に、OYSTEC創業者のゲルノット・カプタイナが、純日本企業からグローバル企業へ変革するビジョンやリーダーシップについてお聞きしました。
Kazさん、この度はインタビューに応じていただきありがとうございます。あなたのような経験豊富な経営者から直接話を聞ける絶好の機会を頂いて、うれしく思います。まず日本の通信事業者であるNTTでのあなたのリーダーシップについてお聞きできればと思います。あなたはNTTのITサービス部門であり、約9万人の従業員を抱えるNTTデータのグローバリゼーションの責任を負っていますが、あなたのNTTにおけるこれまでのご経歴を教えて頂けますか?
西畑: まずはこのような機会を頂きありがとうございます。実はNTTは私にとって家族のような存在なのです。私がNTTに入社したのは今から40年ほど前の1981年です。当時のNTTはまだ日本国内向けの企業でした。ところが90年代に入り、日本が急速に経済力をつけるのに伴い、我々はグローバル市場へ打って出ました。 そのような中で私は1997年からNTTコミュニケーションズのグローバル化プロジェクトに携わってきました。2006年から2009年までは、NTTヨーロッパのマネージング・ディレクターとして、現地子会社を設立し、ヨーロッパ全体の成長を管理するなど、いくつかのリーダー的なポジションを任されました。そしてその後2009年にNTTデータに入社し、グローバル事業のマネージメントとその拡大を担当しました。それ以来、私はずっとNTTデータのグローバル展開を継続的に担当してきました。当初は日本国内に3万人、世界に数えるほどの拠点を展開していたに過ぎませんでしたが、現在では世界50カ国以上で12万人以上を抱えるビジネスに拡大しているんですよ!現在、私は人々のライフスタイルを変革し、社会をより良いものにするために独自のデジタル・オファリングで全世界地域をカバーするNTTデータのグローバル事業の責任を担っています。
NTTデータのような会社でグローバル化をどのように進めてきたのですか?何十年もの間、日本国内に特化し、しかも日本の大企業だったわけですから、かなりのマインドセットの変化があったはずです。それはどのようなことで、どのような戦略で進めたのでしょうか?
西畑: NTTデータの仲間と話し合ったことが、グローバル成長の3つのステージを定義することにつながりました!まず、米州、欧州、アジアのすべての重要地域でM&Aに注力し、グローバルカバレッジの拡大を目指しました。第1ステージ終了時点で約50カ国をカバーすることで、2015年までに元々の日本での売上高から30%増加しました。第二に、そうしたM&A活動に加えて(もちろん、それも引き続き進めていましたが)、ポストM&Aでの活動を拡大していくことで、我々のグローバルブランドをより強固なものにしました。またその場合、"一つの企業体 "であるコンセプトを強調していくことが重要です。 例えば、グローバルアカウントや多国籍のクライアントにより焦点を当てるといったことですね。そうすることで、2018年までに海外での売上を50%まで伸ばすことができました。少し前までは我々はかなりドメスティックな日本企業と思われていたので、それはそれで目新しさを感じるものでした。現在、当社は第三のグローバルステージに入り、“トラステッド・グローバル・イノベーター”や“グローバルトップ5に入るIT企業”になることを目指しています!この目標に向けて、2025年までの活動を計画しており、売上高の30%を欧州・中南米、30%を北米、残り売り上げは引き続き日本なのですが、アジア全体も含めて達成することを目標にしています。既存顧客との取引拡大と新規市場での急激な獲得が成長を加速させたいと考えています。また、常に市場の動向を予測し、革新的な技術への投資を継続的に行っていくことが、当社の成功の柱の一つとなっています。
第3ステージでは、グローバル化戦略の中でM&Aが重要な役割を果たしていきそうですね。買収したいと考えている優良な候補企業がNTTデータに加わることを納得させるにはどうすればよいのでしょうか?
西畑: NTTデータが買収者として本当にお奨めである理由は、3つありますね! 1つ目は、グローバル企業になったとはいえ、日本のルーツを強く持っていること。それは、買収後の安定性を重視しており、大規模なレイオフには消極的であるということです。その代わりに、アメリカやインドの買収者が行うような買収よりも自由度の高い買収を行っています。 第二に、当社は大規模なNTTグループの一員です。つまり財務的に非常に安定しており、これまでも証明されています。最後に、3つ目の理由は、買収した企業間で構築されたエコシステムです。優秀な人材、イノベーション、そして最後により良い顧客のリソースを共有することができますが、しかし、彼らはまだローカルビジネスを開発する自由を保つことができます。またNTTデータの傘下にいることで、アクセンチュアやグーグルのようなこの市場の大手企業との競争に立ち向かう支援を我々は提供することもできるでしょう。
具体的なM&A事例の中で、ご自身が活動を進めてきた事例をお聞かせください。
西畑: それは本当にたくさんあるのですが、“Dell Services”の買収をお話ししましょう。マイケル・デル氏は旧“Dell Services”の前身である会社を買収して、完全に“Dell”に統合してきた経緯がありました。ですので、NTTデータへのカーヴアウトについて交渉した際に、Dellの全ての資産をNTTデータとDell Technologiesの間で分割するというのはかなりの困難を伴いました。例えば、Dellの社員が一人ずつ契約を変更する際に、Dellの社員の銀行情報をどのように登録しなければならないのかなど、細かいところにまで踏み込んでいました。最終的には順調に進み、この買収案件は、大きな成功事例として複数の大手新聞に取り上げられました。また、NTTデータのブランドを世の中に広めることにも成功したのです。
次に”グローバルブランド”としてのNTTデータについてですが、今後どのように展開していくのでしょうか。
西畑: NTTデータのブランドは世界戦略の柱であり、その世間一般への認知は我々にとって非常に重要です。私はよく、1カ国あたりの市場シェア2%は、1カ国あたりのトップITプロバイダーにランクインするための”魔法の数字”だと言っていますが、ドイツなどの主要国ではすでにこの数字を超えていますが、それは素晴らしいことです。しかし、“トラステッド・グローバル・イノベーター”として世界的に認知されることも重要です。そのためには、市場シェアの拡大だけでなく、イギリスの“The Open Golf Tournament”や北米の“Indy Car Series”や“SAPPHIRE NOW”など、様々な重要なマーケティングの機会にも参加しています。また、ガートナーやフォレスターのようなアナリストとも緊密に連携し、当社の強力な能力を市場にアピールし、お客様の目に見える形にしています。同時に、私たちはこれらの能力をさらにパワーアップさせるために努力しています。また、現地でのプレゼンスとグローバルなシナジーを高めることで、持続可能な活動を通じてブランド認知度をさらに高めることができると信じています。
プレゼンスを高めるという話をするときには、ご自身の役割を踏まえて、NTTデータの世界展開に焦点を当てていると思います。市場の可能性をどのように捉えているのか、また、グローバルな地域・国でのNTTデータの事業会社運営についてどのような考えをお持ちですか?
西畑: 市場規模では北米が一番大きいですね。例えば、米国のNTTデータが注力しているグローバルIT市場は、世界市場の約50%を占めています。すでに大きなプレゼンスを持っているとはいえ、他の地域に比べればまだまだ成長の余地はあります。もちろん、ヨーロッパや中南米の市場規模も大きく、ここでも大きな成長の可能性を秘めています。また、高いCAGRが予測されている主要国では、そこでのビジネスをさらに成長させていきたいと考えています。例えば、長期的な成長への道を歩み始めたアジアの経済大国などです。また、過去数年間のM&Aや合併後の活動を経て、現在ではNTTデータの連結基幹組織が一体化してきており、私の好きな“連邦モデル”のような形で運営されています。共に事業をさらに成長させていく。我々は“One NTTデータ”として行動し、より高い目標に向かって、"One Team "として新たな空へと飛び立っていきます。
現在の課題の一つにCOVID-19パンデミックがあります。これはNTTデータや顧客、世界にどのような影響を与えるのでしょうか。
西畑:コロナのパンデミックは、私たちの社会と多くのクライアントのビジネスに大きな影響を与えています。最も重要なことは、人類が可能な限り早くこのウイルスに対するワクチンと薬を開発し、それによって人々がこれ以上亡くならないようにすることです。それができて初めて、グローバルビジネスの世界が正常に戻ることができるのです。NTTデータにとって興味深いのは、我々のビジネスの主要セクターは、他の産業ほど大きな影響を受けていないということです。 おそらくは通信やITはロックダウンの期間を通してあるいはそれ以降も必要だとされているからなのでしょう。そのため、現在は、お客様のビジネスや社会の機能を可能な限り継続することに注力しています。実はこのパンデミックはデジタル化に向けて大きなチャンスをもたらすと思っています。例えば、現在、私たちがお客様に提供し、社内で適用している緊急ソリューションは、将来も継続して使われていくことになります。つまりパンデミックが終われば、私たちは以前よりもさらに強固なデジタル基盤を手に入れることができるのです。
このような困難な時代を生き抜くために必要なことの一つは、私たちの価値観を継続することです。私たちのリーダーシップのスタイルは、そのような具体的な価値観によって動かされていることを知っています。あなたの価値観について教えてください。
西畑: 私は、NTTデータと同じ価値観を共有していると本当に思っています。特に私たちの業界では“人財”が非常に重要であり、それを強調するために様々な取り組みを行っています。例えば、“NTTデータバリューウィーク”を開催し、世界中の社員がNTTデータとはどういう会社か、どうあるべきかをオープンに話し合う場を設けています。また、“女性がNTTデータをインスパイアする”など、ダイバーシティへの取り組みにも投資しています。一人ひとりの違いを尊重し、“One Team”として共に働き、また出身地や性別に関係なく、愛性を持ってコミュニケーションをとることが大切です。私たちは、人財を大切にするのと同じように、クライアントを大切にします。“クライアント・ファースト”という言葉は、私たちにとって単なる言葉ではなく、真言です。お客様のニーズを第一に考え、お客様の期待以上のサービスを目指しています。私はNTTデータの価値観をグローバルに共有するためには、月から地球を見て広い視野を持て!といつも言っています。
ご自身のリーダーシップのあり方や、NTTデータのような巨大組織をどのようにして世界のトップ5企業に育て上げたのか、その深い洞察力に感銘を受けました。さて、OYSTECにおいてはあなたの役割は“エグゼクティブ・アドバイザー”であり、私はあなたの励ましにとても感謝しています。OYSTECについてのご意見をお聞かせください。 正しく行動することは何であり、またどこを改善できるか、そしてOYSTECとNTTデータの共通点があるとすれば何でしょうか?
西畑: エグゼクティブとしてOYSTECをサポートできることを大変嬉しく思います! OYSTECは、現在までに3カ国で事業を開始したばかりの小さな会社ですが、小さいということは機動力があるということです。このような比較的新しい会社の成長をサポートし、見守っていきたいと思っています。また、ITとマネージメントという主要な事業群は、NTTデータの事業群と重なる部分が多い。だからこそ、“経営手法の構築”や“プログラムマネジメント”といった重要なニッチなテーマをカバーし、当社のコア事業をサポートし、それをより大きなものにスケールアップさせることを目指すことで、当社のベンダーになって頂くこともできるのではないでしょうか。また、思い当たることがあります。2018年に米国フロリダ州の“ウォルト・ディズニー・リゾート”でデジタル形式で開催された“Mission to Mars”の司会をしたとき、同じステージに有名なインフルエンサーやライターの方がいらっしゃいました。その中の一人が、『Makers』や『The Long Tail』の著者であるクリス・アンダーソン氏で、“破壊的イノベーションの5つの種類”について語っていました。この“ロングテール”の定義を念頭におくことは、OYSTECにとってデジタル・オファリングの強力な柱の一つとして、プラットフォーム・ビジネスの創出と成長を検討する潜在的な機会の一つになり得ると考えています。近い将来、あなたとさらに議論できることを楽しみにしています。
Kazさん、本日は貴重なお話し頂き、本当にありがとうございました。
西畑氏とカプタイナ氏